ランデのg因子

ランデのg因子(ランデのジーいんし、Landé g-factor)は物理学において、特に用いられることの多いg因子の一種であり、電子スピン角運動量軌道角運動量に対するg因子である。1921年にアルフレット・ランデがゼーマン効果についての論文[1][2]で導入した因子であることより名づけられた。

原子物理学においては、弱い磁場にある原子のエネルギー準位の式の中に表れる比例定数である。原子軌道中の電子量子状態は通常、エネルギーが縮退している。これは全ての量子状態が同じ角運動量を有し、縮退しているためである。原子が弱い磁場にある場合、縮退は解除される。

因子は(系の内部磁場と比べて)弱い一様な磁場中にある原子のエネルギーを一次の摂動論で計算する際に表れる。ランデの g {\displaystyle g} 因子は正確には以下のように書くことができる。

g J = g L J ( J + 1 ) S ( S + 1 ) + L ( L + 1 ) 2 J ( J + 1 ) + g S J ( J + 1 ) + S ( S + 1 ) L ( L + 1 ) 2 J ( J + 1 ) {\displaystyle g_{J}=g_{L}{\frac {J(J+1)-S(S+1)+L(L+1)}{2J(J+1)}}+g_{S}{\frac {J(J+1)+S(S+1)-L(L+1)}{2J(J+1)}}}

電子軌道の g {\displaystyle g} 因子は g L = 1 {\displaystyle g_{L}=1} であり、更にスピンのg因子は g S 2 {\displaystyle g_{S}\approx 2} であると近似すると、上記の数式は単純に以下のように表すことができる。

g J 3 2 + S ( S + 1 ) L ( L + 1 ) 2 J ( J + 1 ) {\displaystyle g_{J}\approx {3 \over 2}+{\frac {S(S+1)-L(L+1)}{2J(J+1)}}}

ここで

J {\displaystyle J} は電子の全角運動量量子数
L {\displaystyle L} 軌道角運動量
S {\displaystyle S} スピン角運動量

電子では S = 1 / 2 {\displaystyle S=1/2} であるため、この式の S ( S + 1 ) {\displaystyle S(S+1)} の個所を 3 / 4 {\displaystyle 3/4} とする形で書かれることもある。 g L {\displaystyle g_{L}} g S {\displaystyle g_{S}} は電子の(ランデの g {\displaystyle g} 因子とは異なった)g因子である。

更に、原子の全角運動量 F = I + J {\displaystyle F=I+J} で表した原子の g {\displaystyle g} 因子を知りたい場合には、以下の式となる。

g F = g J F ( F + 1 ) I ( I + 1 ) + J ( J + 1 ) 2 F ( F + 1 ) + g I F ( F + 1 ) + I ( I + 1 ) J ( J + 1 ) 2 F ( F + 1 ) {\displaystyle g_{F}=g_{J}{\frac {F(F+1)-I(I+1)+J(J+1)}{2F(F+1)}}+g_{I}{\frac {F(F+1)+I(I+1)-J(J+1)}{2F(F+1)}}}
g J F ( F + 1 ) I ( I + 1 ) + J ( J + 1 ) 2 F ( F + 1 ) {\displaystyle \approx g_{J}{\frac {F(F+1)-I(I+1)+J(J+1)}{2F(F+1)}}}

最後の式変形は、電子と陽子の質量比より g I g J {\displaystyle g_{I}\ll g_{J}} とみなして近似した。

ランデのg因子はゼーマン効果のスペクトル解析で利用される。弱い磁場中におかれた原子のエネルギー準位は、磁場によりエネルギーの変化

Δ E = g J μ B H M {\displaystyle \Delta E=g_{J}\mu _{\mathrm {B} }HM}

を生じる。ここで μ B {\displaystyle \mu _{\mathrm {B} }} ボーア磁子 M {\displaystyle M} は全角運動量の磁場方向の成分。

参考文献

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  1. ^ Alfred Landé, "Über den anomalen Zeemaneffekt (Teil I)", Zeitschrift für Physik 5, 231-241 (1921)doi:10.1007/BF01335014
  2. ^ Alfred Landé, "Über den anomalen Zeemaneflekt (II. Teil)", Zeitschrift für Physik 7, 398-405 (1921)doi:10.1007/BF01332807

関連項目