何もかもが彼にくっついていた

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何もかもが彼にくっついていた』(なにもかもがかれにくっついていた、原題:Everything Stuck to Him)は、アメリカ小説家レイモンド・カーヴァー短編小説

概要

『チャリトン・レビュー』1975年秋号に「隔たりDistance というタイトルで掲載された。短編集『怒りの季節』(キャプラ・プレス、1977年11月)に収録。

編集者のゴードン・リッシュによって、「隔たり」は「45パーセント」の削除を受け[1]、かつタイトルも「何もかもが彼にくっついていた」に変更され短編集『愛について語るときに我々の語ること』(クノップフ社、1981年4月20日)に収録された。

短編集『愛について語るときに我々の語ること』の成功によりカーヴァーは一躍名声を得たが、オリジナルに戻すことを望んだ彼は、エッセイや詩や小説を集めた次の単行本『ファイアズ (炎)』(キャプラ・プレス、1983年4月14日)に「隔たり」を再収録した。しかしこの「『ファイアズ』バージョン」は『怒りの季節』に収められたものとは異なり、リッシュのいくつかの改変部分とテス・ギャラガーの提案部分が反映されている[1]。『ファイアズ』バージョンは、生前に出版された精選作品集『Where I'm Calling From: New and Selected Stories』(アトランティック・マンスリー・プレス、1988年5月)にも収録された。

オリジナル原稿は2009年刊行の短編集『ビギナーズ』(ジョナサン・ケープ社)に収録された。

日本語版は、翻訳者の村上春樹が独自に編纂した短編集『ぼくが電話をかけている場所』(中央公論社、1983年7月25日)が初出。『THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER 2 愛について語るときに我々の語ること』(中央公論社、1990年8月10日)に収録された。 

あらすじ

クリスマス。ミラノ。娘は自分の子供のころの話を聞きたがっている。父親は君が赤ん坊のころの話でよけりゃ一つ覚えているよと言い、20年前の出来事を話しはじめる。

彼ら自身がまだ子供みたいなものだった。結婚したとき少年は18、少女は17だった。二人のあいだにはほどなく娘が生まれた。

ある土曜の夜、彼は父親の古い猟友達のカールに電話をかけた。カールに誘われ翌日の朝狩りに出かけることが決まる。日曜日の未明、赤ん坊の泣き声で二人は起こされる。夜泣きはなかなかやまない。

構わず支度をする少年に向かって少女は言う。そんなのだめよ、こんなときにこの子と二人っきりで置いていかないで。

3つのバージョンの主な異同

  • 『愛について語るときに我々の語ること』バージョンの最も大きな変更点は、「一生に一度だけ結婚するカナダ鴨と撃たれた夫婦鴨」の話がまるごと削除されている点である。
  • 『愛について語るときに我々の語ること』バージョンは、主人公と娘がいる場所を明示せず、ほのめかす程度の書き方になっている。だがオリジナル原稿および『ファイアズ』バージョンでは「カッシーナ庭園の近くのファブローニ通りにある彼のアパートメント」とはっきり書かれてある。
  • カーヴァーは『ファイアズ(炎)』に「隔たり」を入れる際、いくつかの部分は削除したままにした。例えばオリジナル原稿では、主人公は「二人が最初の真剣な諍いを起こした話を聞きたいか?」と内容を明かした上で娘に昔話をするが、『ファイアズ』バージョンでは主人公はこの言葉を言っていない。
  • オリジナル原稿は、物語の終盤で「彼に他の女たちができて、彼女にも他の男ができる」と書き記す。カーヴァーはこの言葉も削除したまま『ファイアズ(炎)』に載せた。

脚注

  1. ^ a b レイモンド・カーヴァー『ビギナーズ』中央公論新社、2010年3月30日、501-502頁。同書収録の「『ビギナーズ』のためのノート」(ウィリアム・L・スタル、モーリーン・P・キャロル)より。
短編集
頼むから静かにしてくれ

でぶ - 隣人 - 人の考えつくこと - ダイエット騒動 - あなたお医者さま? - 父親 - サマー・スティールヘッド (夏にじます) - 60エーカー - アラスカに何があるというのか? - ナイト・スクール - 収集 - サン・フランシスコで何をするの? - 学生の妻 - 他人の身になってみること - ジェリーとモリーとサム - 嘘つき - 鴨 - こういうのはどう? - 自転車と筋肉と煙草 - 何か用かい? - 合図をしたら - 頼むから静かにしてくれ

愛について語るときに
我々の語ること  

ダンスしないか? - ファインダー - ミスター・コーヒーとミスター修理屋 - ガゼボ - 私にはどんな小さなものも見えた - 菓子袋 - 風呂 - 出かけるって女たちに言ってくるよ - デニムのあとで - 足もとに流れる深い川 - 私の父が死んだ三番めの原因 - 深刻な話 - 静けさ - ある日常的力学 - 何もかもが彼にくっついていた - 愛について語るときに我々の語ること - もうひとつだけ

ファイアズ (炎)

父の肖像 - 書くことについて - ファイアズ (炎) - ジョン・ガードナー、教師としての作家 - 詩選 - 隔たり(何もかもが彼にくっついていた) - 嘘 - キャビン - ハリーの死 - 雉子 - みんなは何処に行ったのか? - 足もとに流れる深い川

大聖堂

羽根 - シェフの家 - 保存されたもの - コンパートメント - ささやかだけれど、役にたつこと - ビタミン - 注意深く - ぼくが電話をかけている場所 - 列車 - 熱 - 轡 - 大聖堂

引越し - 誰かは知らないが、このベッドに寝ていた人が - 親密さ - メヌード - 象 - ブラックバード・パイ - 使い走り

ぼくが電話をかけている場所
(日本のみ)

ダンスしないか? - 出かけるって女たちに言ってくるよ - 大聖堂 - 菓子袋 - あなたお医者さま? - ぼくが電話をかけている場所 - 足もとに流れる深い川 - 何もかもが彼にくっついていた

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