全血

全血
赤十字社の全血製剤
臨床データ
投与経路 IV
識別
ATCコード B05A (WHO)
ChemSpider none
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全血(ぜんけつ、: Whole blood)は、標準的な献血によって提供されるヒト血液である[1]大量出血への治療や交換輸血(英語版)自己血輸血を行う際に用いられる[2][1]。450 mLから500 mL程の全血を輸血することで、ヘモグロビン濃度を10 g/L程高くすることができる[3]。一般的には輸血を行う前に、交差適合試験が行われる[2][4]。輸血は点滴によって行われる[5]

引き起こされる副作用としては、アナフィラキシー症状などのアレルギー反応溶血高カリウム血症体液量過剰(英語版)輸血関連急性肺障害(英語版)などがある[2][3][6]。全血には赤血球白血球血漿が含まれる[3]。その日の内に採血したものが使用には望ましいが[3][7]、3週間までは保存できる[4][8][9]。通常は採血過程において保存液として抗凝固剤が血液に加えられる[10][11]

全血輸血は1818年に初めて行われた。しかしながら第一次世界大戦第二次世界大戦までは一般に広まることはなかった[4][12]WHO必須医薬品モデル・リスト中において、血液製剤は効果的かつ安全であり、医療制度に必要不可欠な医薬品の1つとして挙げられている[13]。1980年代のアメリカでは、1パックの全血を採血するのにかかる費用は50ドル程であった[14]発展途上国軍事以外で全血製剤が用いられることは今は少ない[2]。代わりに、赤血球濃厚液(英語版)血小板濃厚液(英語版)クリオプレシピテート(英語版)新鮮凍結血漿(英語版)など様々な血液製剤を作製するための原料として用いられる[1][15]

医学的用途

赤血球輸血と同様に、全血輸血には急性溶血性輸血反応(英語版)の危険性があるため、交差適合試験を行わなければならない。そのため、使用する際は赤血球製剤と同様の注意が必要である。また、血漿の過剰によって危険な合併症である輸血関連循環過負荷(Transfusion associated circulatory overload: TACO)(英語版)が引き起こされる可能性があるため、その恐れがある患者の場合は全血輸血ではなく赤血球輸血が推奨される[16][17]

また、新生児に対する輸血の場合は全血の「代替」として、事前に保管していた赤血球と新鮮凍結血漿(英語版)から合成血を作成することがある。合成血にはAB型の血漿中にO型の赤血球が特定の割合で含まれるようになっており、合併症が起こる危険性を減らすために用いられる[18][19][20]

原料として

歴史上を見ると、血液に対して何かしらの追加処理が行われることはなく、ただ全血としての輸血が行われていた。一方、現在の血液バンクの多くでは全血は複数の成分に分離されており、一般的には赤血球の分離や、新鮮凍結血漿(英語版)としての血漿の分離などが行われている[15][21][22]

また、全血製剤から血小板輸血に必要な血小板を用意することもできる。しかしながら、「random platelets」と言及されることがあるように[23]、全血から治療に必要な量を得るには複数人のドナーから提供を受けておく必要があるため[24]、血液バンクによっては代わりに血小板アフェレーシス(英語版)によって血小板採血が行われる場合がある[17][25][26]

一般的には、採血された血液から各成分を分離するにはいくつか方法がある。遠心分離機を使う際は、「高速」と「低速」の2種類に分けることができ、前者は全血を血漿と赤血球に分離する際に用いられ、後者は全血を血漿、バフィーコート(血小板の採取に用いることができる[27])、赤血球に分離する際に用いられる[26]。また、血液を一晩静置することによっても、重力による沈殿が発生して赤血球と血漿を分離させることができる[28][29]

保管

一般的に、全血は赤血球と同様にして保存され[30]、また採血時に保存液としてCPDA-1を使用した場合は35日間、CPDなどその他の一般的な保存液を使用した場合は21日間保存することができる[8][31][32]

全血から血小板を分離する過程で静置する際には、その間は室温に保たなければならない。その際に全血に含まれる赤血球を低温に保つために、なるべく短い時間で行ったほうがよい、とする研究もある[26]

表記

英語では固有名詞は大文字にされるため、「Whole Blood」は輸血もしくは別の製剤の原料として用いられる標準化された全血製剤を意味するのに対し、小文字の「whole blood」は献血後に手が加えてられていない血液を指すことがある[33][34]

脚注

[脚注の使い方]

出典

  1. ^ a b c Hillyer, Christopher D.; Silberstein, Leslie E.; Ness, Paul M.; Anderson, Kenneth C.; Roback, John D. (2007). “Blood Manufacturing: Component Preparation, Storage, and Transportation”. Blood Banking and Transfusion Medicine: Basic Principles & Practice. Elsevier Health Sciences. p. 190. ISBN 978-0-443-06981-9. https://books.google.ca/books?id=3QwXx_enKbcC&pg=PT211 
  2. ^ a b c d Connell, NT (2016). “Transfusion Medicine”. Primary Care 43 (4): 651-659. doi:10.1016/j.pop.2016.07.004. PMID 27866583. 
  3. ^ a b c d Plumer, Ada Lawrence (2007) (英語). Plumer's Principles and Practice of Intravenous Therapy. Lippincott Williams & Wilkins. p. 422. ISBN 9780781759441. https://books.google.ca/books?id=VtybuvktyWkC&pg=PA422 
  4. ^ a b c Bahr, MP; Yazer, MH; Triulzi, DJ; Collins, RA (2016). “Whole blood for the acutely haemorrhaging civilian trauma patient: a novel idea or rediscovery?”. Transfus. Med. 26 (6): 406-414. doi:10.1111/tme.12329. PMID 27357229. 
  5. ^ Linton, Adrianne Dill (2015) (英語). Introduction to Medical-Surgical Nursing. Elsevier Health Sciences. p. 287. ISBN 9781455776412. https://books.google.ca/books?id=mi3uBgAAQBAJ&pg=PA287 
  6. ^ “副作用の説明”. 近畿大学医学部附属病院 輸血・細胞治療センター. 近畿大学医学部附属病院. 2018年9月21日閲覧。
  7. ^ Marini, John J.; Wheeler, Arthur P. (2012) (英語). Critical Care Medicine: The Essentials (4 ed.). Lippincott Williams & Wilkins. p. 267. ISBN 9781451152845. https://books.google.ca/books?id=pD24mJE9Rh4C&pg=PA267 
  8. ^ a b “貯血式自己血輸血の概要と実際”. 一般社団法人 日本自己血輸血学会. 2018年9月22日閲覧。
  9. ^ “Blood Components | Plasma, Platelets & Whole Blood”. The American National Red Cross. 2018年9月22日閲覧。
  10. ^ Rudmann, Sally V. (2005) (英語). Textbook of Blood Banking and Transfusion Medicine. Elsevier Health Sciences. p. 205. ISBN 072160384X. https://books.google.ca/books?id=dXdISwJQJFIC&pg=PA205 
  11. ^ “全血製剤 | 各製剤の紹介 | 輸血用血液製剤 | 医薬品情報”. 日本赤十字社. 2018年9月22日閲覧。
  12. ^ Hemmings, Hugh C.; Egan, Talmage D. (2012) (英語). Pharmacology and Physiology for Anesthesia: Foundations and Clinical Application. Elsevier Health Sciences. p. 628. ISBN 1455737933. https://books.google.ca/books?id=am_DS7rgypAC&pg=PA628 
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  14. ^ (英語) Blood policy & technology.. DIANE Publishing. (1985). p. 8. ISBN 9781428923331. https://books.google.ca/books?id=D9oirqPhCpwC&pg=PA8 
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  16. ^ “Clinical Transfusion Practice Guidelines for Medical Interns Bangladesh” (PDF). World Health Organization. p. 37. 2018年9月21日閲覧。
  17. ^ a b “Circular of Information for the Use of Human Blood and Blood Components”. AABB. pp. 11-19 (2017年10月). 2018年9月24日閲覧。
  18. ^ Sharma, D. C.; Rai, Sunita; Mehra, Aakash; Kaur, M. M.; Sao, Satya; Gaur, Ajay; Sapra, Rahul (2007). “Study of 25 cases of exchange transfusion by reconstituted blood in hemolytic disease of newborn”. Asian J. Transf. Sci. 1 (2): 56-58. doi:10.4103/0973-6247.33448. PMC 3168121/. PMID 21938234. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3168121//. 
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  30. ^ “製剤の保存温度・有効期間”. 兵庫県赤十字血液センター. 2018年9月24日閲覧。
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  32. ^ 稲葉 碩一、大戸 斉、柴田 洋一、坂本 久浩、高橋 孝喜、十字 猛夫、前田 義章「血液保存液 KL-3R3 (CPDA-1) により術前貯血した自己血輸血における臨床的有用性の検討」『日本輸血学会雑誌』第40巻第1号、1994年、1-13頁、doi:10.3925/jjtc1958.40.1。 
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  34. ^ “Primary Immunodeficiency Glossary” (PDF). International Patient Organisation for Primary Immunodeficiencies. p. 9 (2011年4月9日). 2018年9月23日閲覧。

外部リンク

  • Circular of Information for the Use of Human Blood and Blood Components AABB
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