マルコフ性

マルコフ性(マルコフせい、: Markov property)とは、確率論における確率過程の持つ特性の一種で、その過程の将来状態の条件付き確率分布が、現在状態のみに依存し、過去のいかなる状態にも依存しない特性を持つことをいう。 すなわち、過去の状態が与えられたとき、現在の状態(過程の経路)は条件付き独立である。 ロシア人数学者アンドレイ・マルコフにちなんで名付けられた。

マルコフ性のある確率過程をマルコフ過程と呼び、主に以下のような種類がある。

数学的に記せば、確率過程 X(t)、t > 0 がマルコフ性を持つ場合、次が成り立つ。

P r [ X ( t + h ) = y | X ( s ) = x ( s ) , s t ] = P r [ X ( t + h ) = y | X ( t ) = x ( t ) ] , h > 0. {\displaystyle \mathrm {Pr} {\big [}X(t+h)=y\,|\,X(s)=x(s),\forall s\leq t{\big ]}=\mathrm {Pr} {\big [}X(t+h)=y\,|\,X(t)=x(t){\big ]},\quad \forall h>0.}

以下が成り立つマルコフ過程を「斉時的; time-homogeneous」であるという。

P r [ X ( t + h ) = y | X ( t ) = x ] = P r [ X ( h ) = y | X ( 0 ) = x ] , t , h > 0 , {\displaystyle \mathrm {Pr} {\big [}X(t+h)=y\,|\,X(t)=x{\big ]}=\mathrm {Pr} {\big [}X(h)=y\,|\,X(0)=x{\big ]},\quad \forall t,h>0,}

そうでない場合は「非斉時的; time-inhomogeneous」であるという。斉時的マルコフ過程は一般に非斉時的過程よりも単純であり、マルコフ過程の中でも最も重要なクラスである。

実際にはマルコフ過程でないものを「現在」状態や「将来」状態の概念を拡張することでマルコフ過程的に表現することもある。例えば、X が非マルコフ過程であるとする。ここで、X における状態間の時間間隔を過程 Y の各状態とする。これを数式で表すと次のようになる。

Y ( t ) = { X ( s ) : s [ a ( t ) , b ( t ) ] } . {\displaystyle Y(t)={\big \{}X(s):s\in [a(t),b(t)]\,{\big \}}.}

Y がマルコフ性を持つ場合、それは X のマルコフ的表現となる。この場合 X二階マルコフ過程second-order Markov process)と呼ぶ。高階マルコフ過程も同様に定義される。

非マルコフ過程のマルコフ的表現の例として、移動平均時系列に並べた移動平均線がある。

マルコフ過程で最も知られているのはマルコフ連鎖だが、他にも様々な過程があり、ブラウン運動もマルコフ性を有する[1]

出典

  1. ^ Le Gall, Jean-François (2016). Brownian Motion, Martingales, and Stochastic Calculus. Springer Cham. pp. 153-154. https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-319-31089-3 

関連項目

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