野獣死すべし

曖昧さ回避 英国の作家ニコラス・ブレイク(セシル・デイ=ルイス)による1938年の推理小説とは異なります。
野獣死すべし
野獣死すべし(作品集)
1958年初版
1958年初版
著者 大藪春彦
発行日 1958年10月15日
発行元 大日本雄弁会講談社
ジャンル ハードボイルド
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 四六判ハードカバー
函・スピンあり
ページ数 258
次作 血の罠
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野獣死すべし』(やじゅうしすべし)は、1958年に発表された、大藪春彦のデビュー作となるハードボイルド中編小説

早稲田大学の同人誌に発表され、のちに講談社をはじめとするいくつかの出版社から刊行された。電子書籍版や映像作品も制作されている。本項では派生作品『野獣死すべし 復讐篇』、『野獣死すべし 渡米篇』についても説明する。

概要

執筆の経緯

「野獣死すべし」は大藪春彦が早稲田大学在学中、二年生の春休みに大学ノートに書き留めたものである。作者はここで「裏返しの青春」を描こうとしたという。主人公はアプレゲールの生き残りで、既成の社会を無視してのし上がろうとする。伊達邦彦は一度徹底的に傷ついた人間が悪霊として生まれ変わった存在だとしている[1]。 本作は、はじめ友人たちとの同人誌「青炎」に発表されたが、これを目にした同大英文科の教授でワセダ・ミステリ・クラブの顧問である千代有三が推理作家の江戸川乱歩に薦め、乱歩は本作を当時自身が編集長を務めていた雑誌「宝石」に全文掲載した。乱歩は誌上で推薦の辞を述べている。

五月初めに発行された文学同人雑誌「青炎」の創刊号に、WMC(ワセダ・ミステリ・クラブ)会員、大藪春彦さんのこの作がのった。WMC会長千代有三さんがこれを本誌に推薦され、私も一読してたいへん感心したので、百六十枚の長いものだが、思いきって一挙に掲載することにした。これは異常の人生観を持つ一青年の大量殺人物語。拳銃による十人斬り、二十人斬り、三十人斬り、ハードボイルドの机龍之助である[2] — 江戸川乱歩

以後、「野獣死すべし」は注目を集め、毎日新聞で大藪の特集が組まれ、1959年には仲代達矢主演で映画化されるなど、作者は新進ハードボイルド作家として脚光を浴びる[1]

あらすじ

大学院に籍を置く学生、伊達邦彦は戦争で心に傷を受けた世代の生き残り。普段は物静かな秀才として平穏な日々を送っているが、それは表向きの顔にすぎない。彼の心の奥底には暗い憎悪と熱い怒りが渦巻き、影では射撃、スポーツ、特殊技術の習得にストイックに没頭していた。この世で信頼するものは金と武器、そして力。やがて彼は、心に巣食う闇と日頃培った能力を解き放つかのように、空前の完全犯罪を計画する。最初の殺人、強盗を犯し、逃げおおせる伊達。ただ己のみを信じ、何者をも拒むローンウルフ、伊達邦彦。“野獣”は野に放たれ、物語は幕を開けた。

登場人物

伊達邦彦
大学院生
岡田良雄
警部
チャーリー陳
クラブ「マンドリン」のマネージャー
三田徹
「マンドリン」の用心棒
はじきの安
「マンドリン」の用心棒
真田
伊達の大学時代の同級生

刊行履歴

※書名は特記のあるものを除き本項に準ずる。

復讐篇

野獣死すべし 復讐篇
1960年初版
1960年初版
著者 大藪春彦
イラスト 松山恒太郎(函)
皆川知七(カット
斎藤三郎(挿絵)
発行日 1960年3月30日
発行元 新潮社
ジャンル ハードボイルド
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 四六判ハードカバー
函あり
ページ数 232
前作 血の罠
次作 歯には歯を
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概要

あらすじ

前作でアメリカに逃げおおせた邦彦はハーバード大学の修士課程を終え、コロンビア大学大学院の博士課程へ進んでいたが、かつて父の会社である新満精油を乗っ取った矢島祐介の御曹司雅之が、邦彦の妹晶子をたらし込んだことを知り、急遽大学院を中退して日本へ帰国する。父の仇を討つため、邦彦は経済界の怪物とまで呼ばれるようになった矢島の経営する京急コンツェルンに闘いを挑む。

登場人物

伊達邦彦
新東商事の社員
晶子
邦彦の妹
矢島裕介
京急コンツェルンの総帥
矢島雅之
裕介の息子
九條典子
雅之の許婚者
黒松
新東商事の社長
若月貴美子
黒松の個人秘書
水野
弁護士
山下
用心棒
城真紀子
「ボニー」のウェイトレス
町田
邦彦の同級生
正田
東洋日報の記者

刊行履歴

※書名は特記のあるものを除き、本項に準ずる。

  • 1959年10月から12月にかけて「週刊新潮」に連載。
  • 1960年 - 新潮社(単行本)[4]
  • 1969年 - 大藪春彦ホット・ノベル・シリーズ30
  • 1972年 - 新潮文庫『野獣死すべし』に収録。
  • 1979年 - 角川文庫『野獣死すべし』に収録。
  • 1997年 - 光文社文庫『伊達邦彦全集1』に収録。
  • 2016年 - 集英社刊行『冒険の森へ - 傑作小説大全』第3巻「背徳の仔ら」に収録。

渡米篇

野獣死すべし 渡米篇
歯には歯を(短編集)
1960年初版
1960年初版
著者 大藪春彦
発行日 1960年4月25日
発行元 荒地出版社
ジャンル ハードボイルド
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 四六判ハードカバー
ページ数 235
次作 火制地帯
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映画

野獣死すべし(1959年)
映画化第一作。製作:東宝、監督:須川栄三、主演:仲代達矢[5]。大藪自身もカメオ出演している。
野獣死すべし 復讐のメカニック(1974年)
『復讐篇』の映画化。製作:東宝、監督:須川栄三、主演:藤岡弘
藤岡は、原作を読んで伊達邦彦のクールでエリートな部分を自身が演じることは難しいだろうと考え、事実完成作品は原作と大きく変わり田舎っぽいすごさがあったと述懐している[6]。また、仲代版や松田版との対比から、同じ役でも演じる人によってそれぞれの個性が出てまったく違うものになり、面白いと語っている[6]
野獣死すべし(1980年)
詳細は「野獣死すべし (1980年の映画)」を参照
野獣死すべし(1997年)
詳細は「野獣死すべし (1997年の映画)」を参照
野獣死すべし 復讐篇(1997年)
詳細は「野獣死すべし (1997年の映画)」を参照

仲代達矢(1959年版)と藤岡弘(1974年版)が主演した東宝作品は、2006年7月に大藪春彦没後10年企画としてDVD発売された。

サウンドトラック

・野獣死すべし オリジナル・サウンドトラック(2023年9月20日/CINEMA-KAN/規格番号CINK-156)

CD2枚組。本編で未使用の音楽も収録されている。

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ a b 「荒野からの銃火」p.59-68.
  2. ^ 「宝石」1958年7月号
  3. ^ 短編の「揉め事は俺に任せろ」「街が眠る時」を併録。
  4. ^ 短編「誤算」を併録。
  5. ^ 東宝ゴジラ会 2010, p. 293, 「円谷組作品紹介」
  6. ^ a b 別冊映画秘宝編集部 編「藤岡弘、(構成・文 鷺巣義明/『映画秘宝』2000年16号、2010年11月号の合併再編集)」『ゴジラとともに 東宝特撮VIPインタビュー集』洋泉社〈映画秘宝COLLECTION〉、2016年9月21日、pp.123-124頁。ISBN 978-4-8003-1050-7。 

参考文献

  • 東宝ゴジラ会『特撮 円谷組 ゴジラと東宝特撮にかけた青春』洋泉社、2010年10月9日。ISBN 978-4-86248-622-6。 

関連項目

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大藪春彦の作品
長編小説
  • 血の罠
  • 火制地帯
  • 無法街の死
  • みな殺しの歌
  • ウィンチェスターM70
  • 獣を見る目で俺を見るな
  • 血の挑戦
  • 野獣都市
  • 人狩り
  • 蘇える金狼
  • ベトナム秘密指令
  • 謀略空路
  • 殺人許可証No.3
  • 復讐の弾道
  • 汚れた英雄
  • 非情の標的
  • 死はわが友
  • 戦いの肖像
  • 孤狼は挫けず
  • 血まみれの野獣
  • 裁くのは俺だ
  • 切札は俺だ
  • 絶望の挑戦者
  • 唇に微笑 心に拳銃
  • 俺の血は俺が拭く
  • 奴に手錠を…
  • 復讐に明日はない
  • 長く熱い復讐
  • 黒豹の鎮魂歌
  • 沈黙の刺客
  • 傭兵たちの挽歌
  • 戦士の挽歌
  • ヘッド・ハンター
  • 凶獣の罠
  • 餓狼の弾痕
  • 狼の追跡
  • 復讐のシナリオ
  • 暴力租界
短編集
  • 明日を消せ
  • 殺す者殺される者
  • 歯には歯を
  • 鉛の腕
  • 死への逆流
  • 挫折
  • 凶銃ルーガー08
  • 崩潰
  • 名のない男
  • 孤剣(時代小説)
  • 雇われ探偵
  • 若き獅子の最期
  • 最後の銃声
  • 独り狼
  • 男の誇り
  • 囮の末路
  • 特務工作員01
  • 狙われた野獣
  • 全開で飛ばせ
  • 銃は知っている
  • ゲリラは太陽の下を走る
  • トラブル・シューター
  • 男の墓標
  • 青春は屍を越えて
  • 殺しは俺の稼業
  • 極限の狩人
  • 復讐は俺の血で
  • 凶銃
  • 殺し屋たちの烙印
  • 狼の棲む街
  • スパイに熱い死を
  • 血と背徳の街
  • ザ・刑事
  • ザ・復讐者
  • ザ・殺し屋
  • ザ・殺戮者
  • ザ・狙撃者
  • ザ・特殊攻撃隊
  • ザ・戦闘者
  • ザ・一匹狼
  • ザ・血闘者
  • ザ・凶銃
  • 熱き逃亡者
  • 現金強奪
  • 密売者
  • 血の抗争
  • 拳銃稼業
シリーズ作品
伊達邦彦シリーズ
田島英雄シリーズ
矢吹貴シリーズ
  • 破壊指令NO.1
  • 偽装諜報員
  • 狂った報復者(短編)
掟シリーズ
  • 孤狼の掟
  • 復讐の掟
  • 男の掟
  • 非情の掟
  • 骨肉の掟
  • 処刑の掟
  • 輪殺の掟(処刑シリーズと重複)
鷹見徹夫シリーズ
  • 俺に墓はいらない
  • 暴力列島
ハイウェイ・ハンター 西城秀夫シリーズ
  • 東名高速に死す
  • 曠野に死す
  • 狼は暁を駆ける
エアウェイ・ハンター 西城秀夫シリーズ
  • 獣たちの墓標
  • 狼は罠に向かう
  • 狼は復讐を誓う
  • 獣たちの黙示録
処刑シリーズ
  • 輪殺の掟
  • 処刑軍団
  • 処刑戦士
女豹シリーズ
  • 非情の女豹
  • 女豹の掟
  • 蘇える女豹
ウェポン・ハンター・シリーズ
  • 戦場の狩人
  • 謀略の滑走路
  • 地獄からの生還 ザ・サヴァイヴァル
  • 香港破壊作戦
  • オメガ・ワン・破壊指令
  • アウトバーン0号作戦
  • 砂漠の狩人
アスファルトの虎(タイガー)
  • PART1 血と背徳の序曲
  • PART2 死の円舞曲
  • PART3 闇に踊る輪舞曲
  • PART4 灼けた野望の舞踊曲
  • PART5 猛き情熱の狂想曲
  • PART6 静謐なる狂気の夜想曲
  • PART7 魂の鎮魂曲
  • PART8 幻の狂詩曲
  • PART9 滾る肉体の受難曲
  • PART10 熱き欲望の協奏曲
  • PART11 栄光と狂瀾の幻想曲
  • PART12 勝利への奏鳴曲
  • PART13 闇と光の諧謔曲
  • PART14 伝説への終曲
その他
ジュブナイル
  • 怪竜ナトン
エッセイ・対談
  • GUN教室
  • 野獣を撃つ わが血闘の記録
  • 荒野からの銃火
  • 男たちよ戦いの荒野に死ね(対談集)
  • ザ・ビッグ・ゲーム
  • 大藪春彦のワイルド・ドライビング
  • 灼熱のサファリ
  • 孤高の狙撃手
翻訳
  • エンテベ電撃作戦 (エフーダ・オフェール著)
漫画原作
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  • 大藪春彦
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